Canis No.18 和歌山県西牟婁郡大塔村平瀬のオオカミ上下顎骨吻端部

『初めに』奈良、和歌山各県下に存在する二ホンオオカミの標本の多くが、個人所有であって、行政管理下の標本は非常に少ない。個人所有で有るが故、表に出ない標本も相当数あると思われ、実見していないが、所持をしている旨連絡戴いている標本も5指に余る。当主の代替わりなどの際貴重な標本が散逸するケースが多いのだが、そうならない内に調査をしなければ・・・と思っても、中々旨く行かないのが現実である。行政管理となる数少ない中の一つが、紀伊山中にひっそり佇む、ここ大塔村立民俗資料館の標本である。当標本の発見者である井上百合子氏から情報を受けてから10年近く経た2004年10月、2泊3日の標本調査の旅に出たのだが、旅の最後に出会った標本は、無残にも上下の吻端部が切断された、研究者の一人として見た際、勿体無いの一言に尽きる標本であった。誰の意図でこうなったのか知る由もないが、和歌山大学、岸田家、の標本に連なる、紀伊半島産第3例目の二ホンオオカミ頭骨、とされるべき物だった筈なのに!と今でもその時の記憶が甦るってくる。
『由来』96年2月7日。教育委員会、森田氏との電話によると以下の如く。
現在村立民俗資料館の在る大塔村平瀬の小原先生に森田氏が聞いてくれた話に依ると、大塔村平瀬の現在資料館のある場所の近くに中瀬家という旧家があった。
中瀬家が平瀬から外へ転出する時に、現在の資料館が新設される場所に倉庫がありそこへ旧家に伝わる品々を託して行った。
1987年夏頃、井上雄、百合子が平瀬を訪ねニホンオオカミの上下顎骨である事を伝えた。その後1989年2月に京都大学の田隅本生助教授(理学部動物学研究室)と岩田栄之氏の鑑定により、ニホンオオカミの骨であることが発表された。
89年5月には、以前倉庫のあったところに資料館が増築され、そのメイン展示として展示されている。
所蔵も正式に村立民俗資料館蔵となるよう、譲り受けている。
中瀬家は娘さん(多分一人子)が横浜に嫁いでいるが、おそらく詳しいことは知らないだろうと言う。平瀬の長老的存在で教育長等も務めたことがある音窪氏(電話0739-63-XXXX)に森田氏が問い合わせてくれているが、96年2月現在新しい情報は入っていない。                                   (1996年2月、井上百合子聞き取り)  
『所見』標本の横に展示されている鑑定書の文面は以下の通りである。
 右の標本は日本産オオカミ成獣(おそらく雄)の頭骨の一部であると判定します。この動物は、和歌山大学教育学部所蔵の日本産オオカミ標本と同種のものと思われる。             平成元年三月十日           京都大学理学部動物学教室      田隅 本生           寝屋川市幸町 古代ニホンイヌ研究  岩田 榮之