Canis No.7 秩父宮記念三峰山博物館所蔵のCanis hodophilax毛皮の計測値(国内外7例目)

秩父市相生町に在住の内田茂氏宅に長年保管されていたCanis属の毛皮が2002年1月25日、元国立科学博物館動物研究部長の今泉吉典博士に依ってCanishodophilaxの毛皮標本として同定された。筆者はその経緯のほとんど全てを知る立場にあるのでここに報告する。
. 本標本は、茂氏が7-8歳であった昭和11-12年頃、生家に有った事を認識しているが、父の武助氏が、“三峰の奥裏(オクリ)で獲れた珍しいニホンオオカミの毛皮”を猟師(?)から入手した。という事以外詳細は不明であるが、毛の状態から推測して、冬期の捕獲と考えられる。内田家では、キツネ等の憑物落としの為、数年間軒下につるしていた以外繭缶に入れ保管していた。昭和49年に、茂氏が旧地秩父市蒔田から現在地に転居するに当たり、本標本を戸板に釘等で固定し、ほこり除けとして、ビニールをかぶせ、1階、階段脇に固定保管した。
 1995年に筆者がその存在を知り得た時、色映えと形状等はその年月を感じさせない見事さであったが、ビニールをかぶせ通気性を失わせていた為か皮はボロボロで大至急、裏打等の補修の必要性に迫られていた。
 しかし、いつ、どこで、誰が捕獲したのかの確認作業が最優先すると考えた筆者は、与えられた時間とエネルギーの全てをそれに費やしたのである。が、翌年3月に作業の限界を感じ内田氏と相談の上学識経験者に鑑定を依頼した。結果は、頭骨標本が付随していない事も有り、“限りなくニホンオオカミに近い毛皮”であり、Canis hodophilaxとしての同定には到らなかった。
 2001年12月に標本が内田氏より秩父郡内大滝村三峰神社に寄贈されるに当たり、都内文京区の尼崎標本社に裏打ち作業を依頼し、完成後の翌年1月今泉博士の鑑定に到った次第である。
 今までCanis hodopilaxの剥製及び毛皮標本は海外に3例、国内に3例を数えるのみであった。しかしながら、頭、胴、足、尾が完全な状態と言える標本は3例(ライデン・ロンドン・国立科学博物館)で、不完な物は尾端が欠落していた。7例目に当たる内田家(三峰神社)の標本は完全と言えるに足りる標本で、今泉博士の同定の決め手も完全であるがゆえの尾端の形状であった。
 Canis hodophilaxの命名者で、犬科の新種と位置付けた、ライデン自然史博物館の初代館長テミンク[TEMMINCK]が日本動物誌(Fauna Japonica)上にて著した、その特徴の中の一つである“尾端に房を得ず”の記述を発見した事に依って、本標本が7例目として同定され得たと言えるのかも知れない。







CANIS NO.7  May.1 ‘2002.
監 修:井上百合子
企 画:牙映像企画
発 行:秩父宮記念三峰山博物館
編 集:八木 博