Canis No.9 インターネットのオークションにて入手した紀伊半島産とされるニホンオオカミの下顎吻端部加工品(根付け)

『由 来』  

インターネットのオークションには、驚くほど様々な物品が陳列され売買されている。
二ホンオオカミ関連に限っても、Tシャツ、木工品、剥製・・・その他数え上げたらきりが
無いほどなのだが、その多くは人工物か紛い物で、こういったサイトで本物に出会う事は
まず有り得ない・・・と考えていた。
十数年前標本調査で出会った、上下顎揃ったほぼ完璧な頭骨に魅せられて、丁重に、
「もし譲って貰えるなら」と申し出たのだが、持ち主は予想も出来ないほどの値段を
言って来た。その頃其れなりに貯えも有ったので、考えた末お願いする事にしたのだが
いざとなって持ち主は前言を翻してしまった・・・というより、私の申し出に対し始め
から相手にしていなかったのである。若気の至りと云っては何だが、ニホンオオカミに
対して所有者の芯ねと云うか、機微が理解出来なかった恥ずべき体験を経ていた私は、
本物の標本が手中に入るとは、夢にも思っていなかった。そんな事があって、その後も
数多くの標本と接し、望みながらも私の手許に在る頭骨標本は、ニホンオオカミ以外の
物ばかりであった。
 友人の斉藤敦子氏より、私のアドレスにメールが届いたのは2003年9月の事だっ
た。それ以前にもニホンオオカミ関連で連絡を受けていたが、その全ては残念な結末に
なっていた。その時も一縷の望みを持ったものの、大きな期待を持つものでは無かった。
 しかし、ページを開いた私の眼に映ったその標本は、紛れも無いCanis hodophilaxの
根付けそのものだった。大分市在住の出品者に問い合わせると、北九州市の古物商から
仕入れた物で、詳細は古物商から・・・との事だった。
オークションで落札した後、北九州市の古物商に問い合わせたのだが、“通常の取引
の流れの中の商品にしか過ぎない物で、紀伊半島産で有る事くらいしか知り得ない”と
の事だった。今となっては残念な事であるが、全てを埋もれさせてしまったかも知れな
い標本を、存在だけでもこうして確認出来た訳であるので、其れで良しとするべきと考
える次第である。
尚この標本を、私物として蔵するよりも、広く世に知らしめるべきと考え上記秩父宮
記念三峰山博物館に寄贈し、長く展示する様願った次第である。

『所 見』

  この標本は、元国立科学博物館主任研究官の吉行瑞子博士よりCanis hodophilax
(ニホンオオカミ)である旨の書状を頂戴しているのでここに記して置く。