Canis No.23奈良県十津川村森家ニホンオオカミの上顎骨加工品(根付け)

『初めに』
私が紀伊半島の標本調査に足を運び 、初めて手にした標本が森家の上額骨加工品である。勝手の知らない紀伊半島に和歌山の御坊市から入った為、十津川までは長い道のりで、森家を訪れたのは、日没が迫った時刻であった。ご承知の通り、日本で一番面積の広い十津川村の事。辿り着いた森家での計測、撮影もままならず、無理を云って標本借用となった次第で、怪我の功名と云って良いかどうか、その標本を、師である吉行博士に見て頂く機会を得る事となり、目出度く鑑定書発行となったのである。アポを取っていたとは云え、見ず知らずの私に貴重な標本を預けてくれた森家の広い心が、意図しなかった結果に導いたのだと思う。尚、沼平家に関しては、井上百合子氏が電話確認した
8年後の十津川訪問だった為、標本の所在確認さえ及ばなかった。

『由来』
昭和36年5月20日発行の『十津川』学術調査報告書(十津川文化業書
合体 )
(編集 奈良県教育委員会事務局、文化財保護課 発行者 十津川村長 
後木  実)
第ニ章 十津川の鳥獣」津田松苗(奈良女子大教授 理博)記載P13に「村中にオオカミの骨を持っている人が三人あった」とある。
① 内野の 森 栄登氏(もり よしと)
② 杉清の 沢渡 正明氏(さわたり まさあき)
③ 小原の 沼平 万治郎氏(ぬまひら まんじろう)  である。

P13の続きに「そのうち 沼平氏のをみせてもらった。煙草入れのネジメにしてあった。同氏(満89才)の話によると、これは 大塔村(奈良県)篠原の玉井ヨシオ氏より30年ほど前(昭和初年)にもらったのであるが、実際に捕れたのは、それよりも十年も前にはなるまい。篠原でワナにかかったのを捕った、と言う。」の記述が在る。
96.02.23.に井上百合子氏が確認したところに依ると、②の沢渡家以外は所蔵しているとの事で、その際の詳細は以下の通りである。
 ①栄登氏の妹の子(姪)で養女に入った喜平氏の母と電話で話し、現存を確認
したが、標本の詳しい話は何も聞いていないと言う。
②沢渡 正明氏(8年前に没)の未亡人と電話で話したが、標本は無いし,
何も聞いた事がないと言う。
③沼平 ヨシヒサ氏(万治郎氏の孫)(44才)の夫人と電話で話をし、
所蔵を確認し 土、日、以外の午後訪問の許可有り。

『所見』
この標本は、元国立科学博物館主任研究官の吉行瑞子博士より二ホンオオカミ Canis hodophilax Temminck,1839である旨の鑑定を頂戴しているので、ここに記して置く。