再びヤマイヌの収蔵標本について

筆者はさきに東京大学農学部所蔵のヤマイヌ Canis hodophilax Temminkについて報告したが、今回さらに新知見を得たのでここに追加する。
 1948年2月、高島春雄氏の御好意により和歌山師範学校生物教室収蔵品の写真3葉の提示があり、さらに同教室の末松四郎氏より懇篤な通信があった。
 その後、実見の機会を得ずいたずらに日を過すは両氏のせっかくの御好意にたいし礼を失するおそれがあるのでこれをまとめてみた。
 来歴及び入手経路ともに不祥だが、長年月にわたり同教室に保管されており、採集地は和歌山県下ならんといわれる。
保存状態 剥製技術稚劣、四肢の位置きわめて不自然であり、全体に相当のちりほこりを被っている。
 一般外貌 第1図の写真(末松四郎氏原図)のように胴長く四肢短、吻細長で耳介短く直立し差尾である。
 性別   成熟♀。毛色 全体黄褐色で黒紫色の刺毛を混在、ことに背部に濃存し、また口角部において長さ3cmにわたり黒紫色が顕著である。
 毛質 直滑毛、冬毛である

  臼歯長  ヤマイヌの鑑別には上下裂肉歯の大きさが重要な準拠を占めているのはすでに周知の事実である。

第1表  測定者  末松四郎  単位 mm